「源氏物語」とジャパネスク 1
いうまでもないが、平安文学パロディの「なんて素敵にジャパネスク」は、「源氏物語」を思わせる箇所がたくさんある。
瑠璃姫の名は、夕顔の娘玉鬘と同じ名を持つ。しかし玉鬘は、田舎育ちながらも理想的な貴族女性だが、瑠璃姫は平安貴族女性の常識をすべてやぶり、活発で率直で乱暴で外出が好きで結婚を拒もうとする。
「源氏物語」の末摘花は、「落ちぶれた屋敷にひっそりと住む高貴な美しい姫」という、当時の幻想に紫式部がNOをつきつけたキャラクターだろう。氷室先生は、その末摘花にさえNOをつきつける。「落ちぶれた屋敷にひっそりと住む高貴な美しい姫」であるはずの煌姫の性格は、ご承知のとおりだ。
煌姫のすごいところは、いざというとき武器を手に戦う気概すらもっていることだ。7巻で潜伏した漁師小屋に追っ手の気配があったとき、煌姫は「鋤のようなもの」を手にとって、迎え討つ準備をする。結局ことなきをえるが、宮姫として育ちながら、ナチュラルに戦おうとする煌姫の胆力には感心するほかない。
一方の瑠璃姫にも、2巻では小刀を持って唯恵に向かっていくシーンがある。
時には武器を手に取り戦う気迫をもった姫君たち。平安時代には想像もできなかったキャラクターだろう。
「なんて素敵にジャパネスク2」セリフ対決
「ガールフレンズ」収録「冴子ベスト3」ので氷室先生が、お気に入りのキザセリフとして2巻から二つあげている。
1位は唯恵の「世、みな牢固ならず。水沫泡焔のごとし。あの日々は儚く、見果てぬ夢のように輝いていましたね」
3位は高彬の「ぼくで、我慢しなよ」
私は、どちらかというと高彬のセリフの方が好きです。瑠璃姫の何もかもを受け入れ、肯定する。かやの外におかれがちな高彬だが、この一言で一気に男を上げたと思う。
どちらが好きな人が多いのだろう?
「なんて素敵にジャパネスク」愛ゆえの長さ
3巻から8巻は長い。3巻は新婚生活、4巻はアンコール編の後日談、守弥と瑠璃姫の決着が書かれている。そして、はっきりと話の区切りがあるわけではないが、5巻から8巻までがほぼ師の宮編となる。
異論はあろうが、師の宮は少し長すぎるのではないかと思うときがある。宮廷事情の説明の繰り返しや、習俗の説明を減らせば、2冊くらいになるのではにかな、と。
しかし、そういった背景を書き込み方をみると、氷室先生が古文教師として授業しているシーンが思い浮かぶ。古文が好きで好きでたまらず、話をはじめるといつも止まらなくなってしまう、古文好きな子には愛されている先生。そんな授業も、悪くない。
氷室冴子先生を偲ぶ会2014(藤花忌:ふじはなき)参加記5 完結
一読者の勝手極まりない思いだが、私は、氷室先生はあまり新作を
発表なさらなくなった96年頃から、亡くなる3年ほど前に闘病に入られるまで、
どのようにお過ごしだったのか
とずっと思っていました。
はじめて偲ぶ会に足を運んで、我慢できず、田中二郎先生に話しかけて
そのあたりのことを聞いてしまいました。
田中先生の答えを要約すると、「作品を発表しなくなったのは、
疲れたとか、病気とか、出版社と何かあったとかではなく、
自分の中で納得できるプロットを作れなかったからではないか。
99年頃に知り合ってパソコンを教えたが、エッセイなどは書いていた。
考えたプロットを聞かされて、「どう思う」と聞かれることもあった。
それらのプロットは、氷室先生の頭の中にしか残っていないだろう。
氷室先生は、「銀の海 金の大地」第2部などの諸々の作品の続きを
発表しないまま亡くなった事を、悔いてはいなかったろうと思う」
読者としては、あの作品も、あの作品も続きを読めないということは
悲しい限りだが、氷室先生が納得してそのことを選んでいたのならば
しかたがないと思えてきました。
一つのお答えを聞くことができて、本当によかったと思っています。
氷室冴子先生を偲ぶ会2014(藤花忌:ふじはなき)参加記4
6月7日に行われた氷室冴子先生を偲ぶ会では、氷室先生関連のレアなアイテムを
いろいろ見せていただきました。
山内直実先生は、「ガールフレンズ」のカラーページに掲載されている、
高彬と瑠璃のイラストの原画を見せてくださいました。綺麗!
また、氷室先生との写真が収められているアルバムも見せていただきました。
どなたのものかわからないのですが、
氷室先生による自作朗読のカセットテープ、
「冴子の東京物語」単行本発売時のリーフレット(氷室先生のコメント入り)
「海がきこえる」映画公開時のパンフレット(同じくコメント入り)
氷室先生の追悼特集のアニメージュなどもありました。
印象的だったのが、「魔女の宅急便」公開時のムックで、
宮崎駿監督と氷室冴子先生の対談が収録されていました。
公開前に収録された対談で、氷室先生は「魔女の宅急便」を
まだ見ていないにもかかわらず、鋭い質問を投げかけています。
これは、「ジブリの教科書5 魔女の宅急便」文春文庫に収録されています。
ジブリと文芸春秋に感謝。