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「クララ白書」シリーズのフードシーン

クララ白書 1 (コバルト文庫)

 「クララ白書」といえばドーナツ。女子校の寄宿舎に中途入舎する中学三年生のしのぶたちが課されたテストは、真夜中に調理室へ忍び込んで四十五個のドーナツを揚げることだった。シナモンシュガーのかかった揚げたてのドーナツをつまむシーンは、読み返すたびにドーナツが食べたくなる。
 他にもチョコレートパフェ、シフォンケーキ、ワインクッキー、マロングラッセ、手作りのジャムやパイなど、さまざまなお菓子が登場する。豊かで、あたたかで、かわいらしいお菓子たち。
 一方、寄宿舎の毎日の食事の様子がほとんど描かれていないことに、今回再読して気づいた。メニューの描写はごはん、みそ汁、納豆、お弁当の卵焼き、ウインナー程度だ。しのぶたちがドーナツを揚げる天ぷら鍋を探すシーンでも、寄宿で出されるという食べ物は、バナナフリッターやアメリカン・ドッグや大学イモであり、コロッケやから揚げのことは言及されない。
 2001年に文庫で再販された「クララ白書Ⅱ」あとがきで、氷室冴子先生は、自分分は甘いものが苦手だが、しーののイメージとしてはケーキを食べさせたかったこと、そして、ふんわりして甘すぎないくるみやのシフォンケーキは、イメージにぴったりだったと書いている。食べ物は、作品のイメージを作るのに重要だったのがわかる。
 しかし、もちろん「クララ白書」シリーズは単なるきれいな夢の世界ではない。ドーナツのエピソードと共に、しのぶが便秘に悩んでいることが語られる。美に尋常でないこだわりをもつ蒔子も便秘に悩むし、あこがれの美人上級生、白路も薬より蜜柑とアドバイスをくれる。入舎テストのドーナツを食べて、しのぶは「実に平和的に大勝負がついた」。ドーナツ的世界と便秘的世界は、実は表裏一体だ。
 女の子のふんわりした世界を楽しむもよし、意外に甘くない部分を味わうもよし。「クララ白書」シリーズ、名作です。