「恋する女たち」のフードシーン

恋する女たち (集英社文庫―コバルトシリーズ)

 「クララ白書」シリーズにはかわいらしいお菓子がたくさん登場するけれど、ほぼ同じ時期に書かれた「恋する女たち」では、お菓子の描写がほとんどない。あっても無骨な雰囲気だ。主人公の多佳子が友達への手土産と思って買うのは、岩見沢名物天狗饅頭である。「クララ白書」シリーズで友達とやり取りするお菓子が、ホワイトチョコレートやワインクッキーなのが思い出される。他に出てくるお菓子は、多佳子がお茶を立てるために高校の売店で買うベビードーナツくらいだ。
 反対に、日常の食事はたくさん描写される。多佳子はたいてい高校の食堂で昼食をとっているようで、友人や後輩と話しながら食べるシーンが多い。メニューはサンドイッチとテトラミルク、おにぎりと紙コップ入りのみそ汁、海苔巻き、きつねうどんなどで、学食の様子が想像できる。
 もう一つ、失恋シーンにからむ食べ物もみごとに対照的だ。多佳子が勝とその恋人に遭遇し、決定的に失恋するのは、バレー部の飯炊きを手伝わされ、四十人分のおにぎりやけんちん汁や酢の物や豆と昆布の含め煮を作って疲労困憊したところだった。一方「アグネス白書」の蒔子は、失恋がトロピカルパッションのシャーベットという美しいものに彩られていたのがせめてもの救いだという。
 田舎の共学の進学校で、壁を見つめながら悩んだり、変人揃いの友達と語り合ったりしながら過ごすある意味バンカラな多佳子の高校生活。「恋する女たち」は、「クララ白書」とはまったく違うテイストながら、読書家の評価が高い作品で、本の雑誌の少女小説特集ベスト1に選ばれています。これもおすすめ。