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「北里マドンナ」麻生野枝編

 

北里マドンナ (集英社文庫―コバルト・シリーズ)

 氷室冴子先生が続編を予告し、発表されないままとなった小説の中で、私が二番目に読みたいのは「北里マドンナ」の続きの麻生野枝編だ。(一番目は「銀の海 金の大地」の第二部以降)

 野枝からみたなぎさや多恵子や北里はどのように描かれるのだろうか。北里の家庭や日舞のことも野枝編で語られる予定だったのかもしれない。恋愛の話はさけてとおれないだろう。北里の思ったとおり誰も知らないところでつきあっている人がいるのか。案外多恵子に真剣に恋していたりするのか。

 そして麻生野枝編が書かれていれば、氷室作品では初といっていい、ごく常識的な母親と同居するヒロインの小説となっただろう。氷室先生のヒロインは、親と離れて暮らしていたり、母親と死別していたり、変わった母親だったりするケースがほとんどだ。だが、北里の目からみる野枝の母親は、娘が自室ばかりで過ごすことをさびしがる常識的で普通の母親として描かれている。しかし、だからこそ野枝は親に反発し、籠城用の食料をためこんでいるのだろう。氷室先生の描く、普通の母親と、だからこそ反発せずにはいられない強い自我の娘の葛藤を、読んでみたかった。