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「クララ白書」寄宿破りの倫理

月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ! (コバルト文庫)

 氷室冴子先生は、「ざ・ちぇんじ!」愛蔵版あとがきで、文庫が出版された当時「帝が最後までだまされたままでかわいそう」という読者の意見が多かったことを紹介し、読者って倫理的だという感想を述べている。

 「クララ白書」シリーズを最初に読んだとき、倫理的な中学生だった私は、虹子たちグループと長谷尾の扱いの差が気になった。虹子たちは寄宿破りや飲酒喫煙をしているが、バレずにうまくやっている。一方、長谷尾はつかまって退学になる。遊び方の程度の差はあるにしろ、長谷尾が逆恨みしたくなる気持ちもわかると、釈然としなかった。

 しかし「月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ!」に収録の番外編「お姉さまたちの日々」で、虹子の人生観を読んだとき、氷室先生もその不公平は充分わかっていた、と感じた。遊んだ人が退学になっても同情するけど仕方ない、でも白路のスキャンダルは、虹子が作り上げた学園の平和に、ひいては虹子のプライドに傷をつけるから阻止するというのが彼女の論理だ。釈然としなかったものが納得できたし、はっきりしていて好感が持てた。

 長谷尾に忠告して逆ギレされた虹子のコメントは、1980年の文庫旧版と1996年の愛蔵版で異なっている。前者は「世の中にそうそう悪気のある人間がいちゃ、たまったものじゃないわよ」で長谷尾を一応擁護しているが、後者は「”あの人も悪いヒトじゃないんだけど”っていい方するときは、悪いヒトのほうがまだましだってニュアンスがあるわけよ」とより厳しいコメントになっている。「お姉さまたちの日々」は1985年の発表だ。この作品で虹子の人生観がはっきりして、辛口になったのかもしれない。

 さらにつっこんだ想像をすると、1983年に「少女小説家は死なない!」が発表された。「少女小説」に対する世の中の扱いに関する、氷室冴子先生の苛立ちはさまざまなエッセイなどに描かれている。代表作「クララ白書」の憧れの上級生たちの、めちゃくちゃな裏面を描くことで、「少女小説」を解体したかったのかもしれない。

 「お姉さまたちの日々」は重要な作品だと思うが存在を知らなかった。復刊してくださった方に深く感謝します。