氷室冴子先生と料理

 

近頃、気になりません? (講談社文庫)

 コミックス版「ライジング!14」おまけまんが(1984)や、「ガールフレンズ」新井素子先生対談(1985)などにより、氷室先生は食べることと料理が苦手というイメージがあった。だが作品を再読し、そのイメージが修正された。

 氷室先生のお母様は料理や裁縫が得意だったそうだ。1957年生まれの先生は、子供時代にかなり料理を仕込まれたかもしれない。「氷室冴子読本」の「サエコストーリー」に、手書きレシピが載っている。いかと野菜のあんかけ(料理名不明)、なすのとりみそやき、こんぶのつくだに、さつま汁。分量も記載され、毎日の食事をきちんと作ろうとしている。最初に「ぬのめいか(飾り切り)」がでてくるあたり、手を抜いていない。

 また氷室先生の高校時代は、「恋する女たち」のバンカラなイメージが強いが、「マイディア」に違う面も描かれている。「あたし、勉強するより、お菓子つくったり、パン焼いてるほうが好きなんだ。大学いくより、早く結婚して、家のことしたい。いま、一番ほしいのは、上等の生イーストよ」といい、男の子に「いまどき、めずらしい考え方だね」といわれてしまう。

 作家デビューしてしばらくの間は、お金のなさや忙しさから食事に手をかけられずにいて、食事や料理が苦手というイメージができたのだと思う。また私の推測だが、少女時代にきちんと料理していた分、手抜き料理ができず、かえって苦手意識をお持ちだったのかもしれない。

 しかし、時間とともに食べ物に対するスタンスは変化する。「ガールフレンズ」収録のQA1990)では、「健康にはどのように気を遣っていますか?」との質問に「食事を正しくとること。これが一番。・・・」と回答している。この頃はブランチと夕食の一日二食で自炊していらっしゃるようだ。

 「氷室冴子読本」の「得意料理ベスト10」(1993)は、おでん、冷やし中華、すきやき、ふろフキ大根、たけのこの土佐煮、肉じゃが、昔ふうカレー、カキ入りお好み焼き、伊勢えびの活けづくり、じゃがいものコロッケだ。ごちそうも、日常のおかずもおいしそうだ。

 「近頃、気になりません?」講談社文庫解説エッセイ(1999)には、「私もそれなりに料理好き、糠床を毎日かきまぜて糠漬けを作っています」という言葉がある。ほぼ休筆されていた時代なので、かなり料理に時間を使えたのではないかと想像される。