性暴力とその隠蔽

「白い少女たち」の倫子と千佳が、性暴力被害を徹底的に隠蔽し、自分たちだけで傷を抱え込む様子は痛ましくてならない。

 そして、氷室先生の小説の他の登場人物たちも性暴力被害を隠蔽する。

 物の怪憑きの瑠璃姫ですら、師の宮に接吻されたことは誰にもいえない。

「少女小説家は死なない!」で米子はファンレターをネタにゆすられるが、一番公にしたくなかったのは、手ごめ(傍点)にされかかったくだりだということに注目したい。

 これらの作品が書かれた当時は、現在よりもさらにタブーが強く、被害に遭った人は誰にも言えなかったのだろうか。

 なお番外編「少女小説家を殺せ!」では、一番公にしたくない箇所が「手ごめ云々」から「一夜をトモにしたい云々」に変わっている。ファンレターの内容を分かりやすく修正たした際に、一緒に直しただけかもしれないが、暴力へのスタンスが少し変わったのかもしれない。

銀の海 金の大地」では性暴力のエピソードがたくさんあるが、よくも悪くもオープンな世界なので、だいたいまわりに知られてしまう。苦しみながらも生き延びて、身ごもった子供を育てた女性の姿も描かれている。