「銀の海 の大地」における妊娠・出産(1)

「銀の海 金の大地」イラスト集

 9巻「迷い込んだ小鳥」で、妊娠している氷葉州姫は、酒を一気飲みする。長老の振熊が制止しても、醸酒はとても気持ちが休まるといって聞かない。この時代、妊娠中の飲酒についてどれほど知識があったかわからない。だが、この飲酒シーンは明らかに、氷葉州姫のねじまがった性格を表現している。「海がきこえるIIアイがあるから」で妊娠中の美香が飲酒するシーンは、氷室先生の筆がすべった感じがあるが、それとははっきり違う。
 氷葉州姫は、初めての胎動を、佐保姫誘拐をごまかすのに利用する。胎動に感動する妊婦ばかりではないと思うが、ここにも氷葉州姫の性格のゆがみを感じる。
 そして、この氷葉州姫は、難産に苦しんだ描写がない、「銀の海 金の大地」には珍しい妊婦だ。それほど難産描写が多い。
 美知主の子、日触を産む八津女は、25・6歳だが、この世界では高齢出産扱いだ。赤ん坊の頭が爪の先ほど出た状態で止まっていると聞き、戦場に慣れた美知主もぞっとする。これは会陰切開できればすぐに産まれるのではないだろうか。近代医学のない世界でお産をしてきたすべての女性を、心から尊敬する。
 大闇見戸亮が佐保姫を産むときも、命を落とすかと危ぶまれるほどの難産だった。それがきっかけで、御影と真澄が殺されかける。
 穂波の母には、自分の死期の予言を聞いて受け入れたエピソードがあるが、そもそも病を得たきっかけは穂波の出産だった。つくづく命がけだ。
「羽衣の姫」も難産のシーンから始まる。須久泥王の祈りが通じたのか、珠姫は無事に産まれるが、高額姫は以降病がちになってしまう。しかし、須久泥王が葛城の男たちに祝福されたり、親子で生きるために運命と闘う決意をして歌凝姫と和解したりというストーリーは、赤ん坊の誕生という希望なしにはありえなかっただろう。