氷室冴子先生と藤花忌

なんて素敵にジャパネスク 人妻編 1 (白泉社文庫 や 2-11)

 発売中のメロディ6月号555ページに、「なんて素敵にジャパネスク人妻編」を含む白泉社文庫の広告が掲載されている。白泉社のほかの出版物にも、同じ広告が載っていると思われる。
 そこに、「藤花忌「氷室冴子さんを偲ぶ会」のお知らせ」のコーナーがあり、HPのアドレスとともに、今年は七回忌にあたるので、多くのファンに来てもらいたい等と書かれている。
 
 作家の命日に植物の名をつけたものは、桜桃忌、菜の花忌などが思い浮かぶが、氷室先生は藤花忌となったようだ。実をいうと、「6月は有名すぎる桜桃忌があるし・・・紫陽花はあまり氷室先生の作品との関連が思い浮かばない・・・撫子や百合は、花の名自体に意味がついてしまっている・・・「恋する女たち」の葬儀シーンのレモンは、当然基次郎に使われている・・・彼岸花では季節が・・・真珠と血赤サンゴがお好きと書いていたから、そっちではどうか・・・でも、ジャパネスクのイメージは入れたい・・・いっそ瑠璃忌では・・・でも、瑠璃姫だけを書いたように思われるのも先生は嫌がるだろう・・・」等、自分で考えたことがある。誰にも頼まれていないのに。
 
 氷室先生と藤の関連を、思いつくままにあげてみる。

・「アグネス白書」朝衣の夢「花びらが降りしきる下で、わたしをよく理解してくれている男性に、きみは優しい、いいひとだ、ぼくはきみが大好きだ、と言ってもらいたい」が悲しく実現したのは、自宅の藤棚の下だった。桜だと、進学したものの孤立しているという状況に早すぎるから藤の花かと一瞬思ったが、それは関東の感覚で、北海道の桜はもっと遅いだろう。ベタさを避けた選択だろうか。

・「続ジャパネスク・アンコール!」結末近くで瑠璃姫が帝に贈った和歌 「今日よりは/紫匂う花房の/藤もひらけり/初夏の夜」

・「冬のディーン 夏のナタリー2」で、藤色のシルクのアンサンブルスーツを着たゆり絵を目撃した蓉子は、「あわい藤色という、着こなしがむずかしい、へたをするとボケてしまいそうな色を着こなしているのも、センスの良さを思わせた」とコメントしている。
・「多恵子ガール」で、多恵子が「日舞って藤娘しか知らない」との発言。

 ここまで、成就しない恋にからんで登場することが多い気がする。

・瑠璃姫と高彬はそれぞれ藤原氏の出身。
・氷室先生は藤女子大学の出身。

 他にあると思いますので、ご指摘ください。

恋する女たち カバーデザイン

  現在「恋する女たち」の書影として通常出てくるのは、斎藤由貴さんがあぐらをかいて腕組みをしている写真だと思う。これは、映画公開時のものだろうから、当然、その前のバージョンがあることになる。
 1996年ごろ、古本屋で前のバージョンを見つけて、思わず買ってしまった。

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 旧バージョンは「カバー絵/石関詠子(イラスト・ファクトリー)装丁/三谷明広」、新バージョンは「写真提供/東宝株式会社 装丁/三谷明広」となっている。

 旧バージョンはカバー裏見返しに同時期発売と思われる本のタイトル・著者が列記されている。「愛の小説集 小さな花の歌」清川妙「サイボーグ009超銀河伝説」原作石森章太郎 杉山卓「イラストエッセイ あなたとミルクティー」みつはしちかこなど。時代を感じる。「恋する女たち」は上から四番目だ。


 くしくも、私の手元にあるのは、旧バージョン、新バージョンとも昭和60年10月15日発行の第23刷だ。初版が56年なのでかなりの勢いで増刷がかかっている。映画公開は61年なので、在庫のカバーをかけかえて販売されたものだろうか。
 映像化作品には手を出していなかったが、映画も見たくなってきた。

氷室冴子先生を偲ぶ会2014

 偲ぶ会を主催なさっている田中二郎先生が、2014年の告知をなさっている。
6月7日14時 龍善寺とのこと。
今年は、参加してみたい。

http://nerimadors.or.jp/~saeko/


田中二郎先生は、大学の教員でいらして、氷室先生とはお友達で、
パソコンの管理をされていたそうだ。
氷室先生が生前お使いになっていたアドレスが今も生きていて、
田中先生が氷室先生関係の連絡に使っている。

このページの各項目をクリックすると、文章が載っている。
●ご本 には、日本橋学館大学に寄贈された、氷室先生の蔵書リストが
載っていて、必見。ご自身の本、好きだとエッセイに書いていらした作家の本、
書評を書いた本、ジャパネスクや銀金の資料だったと思われる本。
少しずつ読んでいき、氷室先生がどんなことを考えていたのか、
想像するのも悪くないと思う。

 

 

「エリノア」谷口ひとみ

 復刊ドットコムで、谷口ひとみ「エリノア」の復刊を知り、注文した。氷室冴子先生が「クララ白書」(1980年版)のあとがきで、その衝撃を熱く語っていた作品だからだ。主人公が目もあてられない醜女だったこと、天使のように美しくなること、救いのない結末であること、それでも読み返さざるをえない作品であったことが書かれている。
 しばらく待って、「エリノア」がとどいた。48ページの「エリノア」本編の他に、同じ作者による詩、週刊少女フレンド掲載の追悼記事、復刊に尽力されたさわらび本工房氏の文章二編が収録されている。

「エリノア」は、1966年に週刊少女フレンド新人まんが入選作として、掲載された。当時作者は17歳、氷室先生は9歳頃のはずだ。醜いエリノアは、わずかな間だけ魔法で美しくなり、恋する王子と踊る機会を得る。が、物語の結末は残酷で悲劇的なものだ。「シンデレラ」と「人魚姫」を連想させるストーリーだが、エリノアの運命は人魚姫よりもはるかに救いがない。氷室先生が9歳でこの物語に強い印象をうけたというのは、早熟にも思えるが、9歳だったからこそ衝撃的だったのかもしれない。

  さわらび本工房氏の文章では、復刊にいたった経緯や池田理代子氏・里中満智子氏との交流のほかに、ご遺族が初めて明かした死の背景が書かれている。その背景をご存知でなかったはずの氷室先生が、「あのどうにもならない運命論的な結末には、谷口ひとみさんの内的必然性があったのかもしれない・・・」とお書きになっているのは、慧眼というほかない。また、さわらび本工房氏の「一つの作品にここまで身を削る創作態度が職業としての作家に向いていたかどうかが疑問」という指摘も鋭いと思った。
 純粋に作品のみを読んで衝撃をうけた当時の氷室先生を含む少女たちと同じ読みかたはできないが、作者の生き方とあわせて、「エリノア」は私にとっても忘れがたい作品となった。復刊ドットコムでまだ買えるようなので、ご興味のある方はぜひ手にとってもらいたいと思う。

http://www.fukkan.com/fk/CartSearchDetail?i_no=68311186

 

 

「海がきこえる」大学・高校のモデル

海がきこえる (徳間文庫)

 拓たちが通っていた高知の高校のモデルは、土佐高校。地域一の進学校だ。
 高校時代の拓は特別に映画が好きとか、何かを創りたいとかいう様子がないのに、大学では非常にクリエイティブなコース(モデルは日大芸術学部)にいるのが不思議だった。
 HP「海がきこえるを歩く」を読んだら、当時の氷室先生の担当編集者の出身校をモデルにしたという裏話がのっていた。長年の謎が解決。
 里伽子の大学のモデルは、大学の位置や校風の描写から、東京女子大だ。「クララ白書」白路の志望校でもある。里伽子と白路が出会ったら、どんな会話をするのか想像もつかない。
 松野の進学先は、具体的には書かれていないが、京都大学ではないかと私は推測する。六年生の夏、国立志望の人がよくいく大阪の予備校に通っている。土佐高の進学実績を考えると、やはり第一志望は京大ではないか。そして、志望大学に合格し、進学している。
 ここで、里伽子が東京で通っていた高校はどこかという疑問がでてくる。成城から通学可能で、共学で、成績がいい。国立や都立の学校にしては、校風がお嬢様お坊ちゃますぎる気がする。青山学院高等部は、イメージぴったりだが、ほとんどが青学に進学する学校だ。ジャニーズ岡田の「あ、杜崎くんもさ。おなじ受験だろ?同じ大学であえたら、おもしれーな」というせりふは、受験が当然の進学校のもので、大学付属高ではないと思う。
 私学・共学・進学校という条件を満たす学校として、ICU説を提唱してみたい。里伽子は私大文系志望で成績がいいので、英語も得意だろうし。でも、学校の雰囲気は、少しちがうかな・・・。これも謎です。

「銀の海 金の大地」における妊娠・出産(2) 

銀の海 金の大地 4 古代転生ファンタジー (古代転生ファンタジー/銀の海 金の大地シリーズ) (コバルト文庫)

 お産で命を落とした人に、御影・大闇見戸亮姉妹を産んだ加津戸亮がいる。現代で双子を産むときは、予定帝王切開が多いが、セルフ帝王切開・・・ううう・・・。 
 また、物語に直接登場しない人物だが、美知主、真若王、五百依姫、御井津姫の母に当たる息長の巫女姫に注目したい。
 同母兄妹である美知主と御井津姫の年齢差は実に27歳だ。出産開始が15歳くらいで、最後の出産が40代前半と仮定すれば、ありえない年齢差ではないが、かなりすごい体力だと思う。御影や大闇見戸亮が40代前半でほとんど老女として扱われているのを考えれば、なおさらだ。
 この人は御井津姫を出産して亡くなっている。御井津姫は、そのことを「しょうがないわ、お母さまはもう、おトシだったんだもの」とあっけらかんと受け入れている。母がいないかわりに兄や姉に愛されて育った彼女のキャラクターを表しているし、お産による死が特別なことでない様子もわかる。

「銀の海 の大地」における妊娠・出産(1)

「銀の海 金の大地」イラスト集

 9巻「迷い込んだ小鳥」で、妊娠している氷葉州姫は、酒を一気飲みする。長老の振熊が制止しても、醸酒はとても気持ちが休まるといって聞かない。この時代、妊娠中の飲酒についてどれほど知識があったかわからない。だが、この飲酒シーンは明らかに、氷葉州姫のねじまがった性格を表現している。「海がきこえるIIアイがあるから」で妊娠中の美香が飲酒するシーンは、氷室先生の筆がすべった感じがあるが、それとははっきり違う。
 氷葉州姫は、初めての胎動を、佐保姫誘拐をごまかすのに利用する。胎動に感動する妊婦ばかりではないと思うが、ここにも氷葉州姫の性格のゆがみを感じる。
 そして、この氷葉州姫は、難産に苦しんだ描写がない、「銀の海 金の大地」には珍しい妊婦だ。それほど難産描写が多い。
 美知主の子、日触を産む八津女は、25・6歳だが、この世界では高齢出産扱いだ。赤ん坊の頭が爪の先ほど出た状態で止まっていると聞き、戦場に慣れた美知主もぞっとする。これは会陰切開できればすぐに産まれるのではないだろうか。近代医学のない世界でお産をしてきたすべての女性を、心から尊敬する。
 大闇見戸亮が佐保姫を産むときも、命を落とすかと危ぶまれるほどの難産だった。それがきっかけで、御影と真澄が殺されかける。
 穂波の母には、自分の死期の予言を聞いて受け入れたエピソードがあるが、そもそも病を得たきっかけは穂波の出産だった。つくづく命がけだ。
「羽衣の姫」も難産のシーンから始まる。須久泥王の祈りが通じたのか、珠姫は無事に産まれるが、高額姫は以降病がちになってしまう。しかし、須久泥王が葛城の男たちに祝福されたり、親子で生きるために運命と闘う決意をして歌凝姫と和解したりというストーリーは、赤ん坊の誕生という希望なしにはありえなかっただろう。