2013-01-01から1年間の記事一覧
「いもうと物語」の「黒い川」で、チヅルは母清子に連れられて母方の伯母の家へ行く。そこで彼女がみたのは、斜陽になりつつある炭鉱町や、景気が悪くなって落ち込む伯父と家族の争いに悩む伯母、粗暴ながらも成長しようとする従兄だった。炭鉱労働者にはな…
これを書いている現在は2013年で、1984年の蕨ヶ丘物語から30年近くが経っている。日本はバブル経済とその崩壊、二度の大震災、先の見えない不況の時代と地方の深刻な過疎化高齢化を経験している。そんな時代の蕨ヶ丘と権藤家のことが心配で仕方ない。そこで…
筆者は中学生のとき初めてこの作品を読み、第三話まで抑圧的だった小梅ばあさんが第四話で見せる生き生きとした素顔、過去の片思いの相手たちを探しに行く展開、そしてドタバタが非常に痛快だったという記憶がある。しかし、この作品を書いた頃の氷室先生の…
「蕨ヶ丘物語」の小梅ばあさんは、孫娘には「生きた明治維新」と思われているが、実は大正元年生まれだ。1912年の5月に生まれたの親友イネさんは明治45年、同じ年の11月生まれの小梅ばあさんは大正元年生まれとなり、「明治維新と大正モダニズム、この差は大…
私が最もよく氷室冴子先生の小説を読んでいたのは、中高生だった1990年代だ。そのときに、小説と漫画(原作小説が先に出版されたものは除く)で文庫、単行本が出ているものはコンプリートしたと思っていた。 しかし、最近再読をはじめ、インターネットの…
日本の民法上、叔父と姪は三親等の傍系血族にあたり、結婚できない。 しかし、「雑居時代」の1982年コバルト文庫版で、主人公の倉橋数子は、血のつながった父方の叔父である譲に真剣に恋し、結婚を夢みている。譲と別の女性の結婚が決まったときには、「…
「なんて素敵にジャパネスク8 炎上編」のあとがきでは、続編はアンコール編となることが予告されている。結局発表しないまま氷室冴子先生は逝去されたが、誰を主人公とした作品が構想されていたのだろうかと、あれこれ想像が膨らんでしまう。 私が一番読み…
「クララ白書」シリーズにはかわいらしいお菓子がたくさん登場するけれど、ほぼ同じ時期に書かれた「恋する女たち」では、お菓子の描写がほとんどない。あっても無骨な雰囲気だ。主人公の多佳子が友達への手土産と思って買うのは、岩見沢名物天狗饅頭である。…
「クララ白書」といえばドーナツ。女子校の寄宿舎に中途入舎する中学三年生のしのぶたちが課されたテストは、真夜中に調理室へ忍び込んで四十五個のドーナツを揚げることだった。シナモンシュガーのかかった揚げたてのドーナツをつまむシーンは、読み返すた…
2012年8月、「月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ」が発売されました。2008年に亡くなった作家、氷室冴子先生の文庫本未収録作品と再録作品が合わさった一冊です。 これをきっかけに、中高生のとき大好きだった氷室冴子先生の作品をゆっくりと読み直すことにしました…