「クララ白書」寄宿破りの倫理

氷室冴子先生は、「ざ・ちぇんじ!」愛蔵版あとがきで、文庫が出版された当時「帝が最後までだまされたままでかわいそう」という読者の意見が多かったことを紹介し、読者って倫理的だという感想を述べている。 「クララ白書」シリーズを最初に読んだとき、倫…

氷室冴子作品 名前の重複

たくさんの氷室冴子作品の中には、同じ名前の人物もいる。 まず、主人公なのに名前が重複している「ターン」の田中鞠子。「ライジング」で祐紀のライバルとなる樋口鞠子と同じ名前だ。 細かいところになると、井上。「雑居時代」の鉄馬のテニス部の後輩井上…

「なんて素敵にジャパネスク」イラストとキャラクター描写

藤本ひとみ「まんが家マリナ」シリーズの第一作「愛からはじまるサスペンス」本文では、マリナの外見の描写が非常に少ない。美人でない、平凡な白いブラウス、スカート程度である。背が低い、眼鏡、前髪を結んで「チョンチョリン」をつけているなどの容姿は…

「なんて素敵にジャパネスク」守弥のイラスト

峯村良子先生が「守弥のジャパネスク・ダンディ」以降で描く守弥は、精悍な美形だが、初登場の「ジャパネスク・スクランブル」では、へちまそっくりの顔だ。(後藤星先生イラストによる新装版のあとがきには、氷室先生が「守弥は美形です」とはっきり伝えた…

マスコミでの取り上げられ方(2)

Asahi Journal1986年10月3日号にも氷室冴子先生が登場し、筑紫哲也氏と対談している。「なんて素敵にジャパネスク」ドラマと「恋する女たち」映画のプロモーションの時期だ。 対談のタイトルは、「純文学は字ばかりで苦手と呼吸するように書く」である。 「…

マスコミでの取り上げられ方(1)

Asahi Journal1985年7月26日号の記事について、北上先生の文章とは別に、編集サイドが「少女小説」を取り上げるやり方に疑問を覚える。 「言葉以前の記号の洪水」というタイトルの前に「(文字を斜めにレイアウトして)わ、ひどっ!!う、うわあ!!」と挿入…

「キタガミ氏のキツーイ書評」

「マイ・ディア」に、「私はかつて、キタガミ氏(引用者注:評論家北上次郎氏)に、かなりキツーイ書評をされちゃったことがあって、恨みかさなるキタガミ氏ではあるのですが(以下略)」という記述があります。 Asahi Journal1985年7月26日号「言葉以前の記…

「本の雑誌」座談会<原稿料を考える>

前回、紹介したサイトの著作リストにない雑誌記事を見つけました。 「本の雑誌」1993年7月号<座談会>原稿料を考える=大沢在昌・氷室冴子・夢枕獏 原稿料が適正な報酬になっていないという、作家の立場からのお話です。 ・氷室先生が「小説ジュニア」新人…

氷室冴子先生 関連サイト

普段お世話になっている氷室冴子先生の関連サイトです。 http://kanoh.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-1eef.html 「かのろぐ」 「ほしのこえ あいのことば/ほしをこえる」などの作家、加納新太先生のブログです。氷室先生による雑誌記事リスト・「氷…

「海がきこえるIIアイがあるから」美香の妊娠について

妊娠・出産の経験をへた後に「アイがあるから」を読むと、どうしても不自然に思える点がある。美香が流産するときに、まず友人の安西に電話をすることだ。成城に住む美香が月島に住む安西に電話で助けを求める。安西は救急車を手配し、豪徳寺に住む里伽子に…

「クララ白書」しのぶの愛読書

桂木しのぶは、クラシックな日本の少女小説を愛読している。その筆頭は吉屋信子だが、大林清「母恋ちどり」も愛読書として挙げており、初版から新装文庫版(2001年)まで一貫している。 この作品は、インターネットで検索する限り、1950年頃にポプラ社から出…

海がきこえる 連載と単行本の異同

連載と単行本は大きく違うと聞いてはいましたが、二十年以上前の雑誌を探す労力を思い、ためらっていました。しかし、連載にはキスシーンがあるとか、拓と松野と里伽子と知沙が旅行するとか聞いたら、単行本と文庫の変更箇所なんていう重箱の隅をつつくよう…

「海がきこえる」 単行本と文庫の異同

氷室冴子先生は、加筆修正作業が大好きと発言しており、文庫や愛蔵版でかなり修正される作品が多いです。「海がきこえる」文庫版あとがきでは、時代の変化がゆるやかになり修正が少ないと書いていますが、それでも直している箇所はかなりあります。 単行本の…

「海がきこえる」 里伽子の父

人の親になって「海がきこえる」二冊を読み返したら、里伽子の父に腹が立って仕方なかった。不倫して離婚したのは仕方ないとしても。 まず、高校生の里伽子が東京に行ったときのことだ。里伽子がひとりで拓の泊まるホテルに来たとき、父親は何をしていたのか…

「北里マドンナ」 飲み物について

高校生のとき、友人に「北里マドンナ」を貸して読ませたら、「ペリエが常備してあって子どもが水代わりに普通に飲んでいい家庭って、すごいブルジョワ」という感想だった。(当時は、「セレブ」という言い回しはなかった)私はそのころペリエを知らなかった…

「北里マドンナ」麻生野枝編

氷室冴子先生が続編を予告し、発表されないままとなった小説の中で、私が二番目に読みたいのは「北里マドンナ」の続きの麻生野枝編だ。(一番目は「銀の海 金の大地」の第二部以降) 野枝からみたなぎさや多恵子や北里はどのように描かれるのだろうか。北里…

北里マドンナ 語られなかったこと

「北里マドンナ」では「なぎさボーイ」「多恵子ガール」の脇役、森北里が、親友なぎさへのコンプレックス、なぎさのガールフレンド多恵子への恋愛感情、そのカップルを揺さぶった槙への思いを語る。 しかし、読み返してみて、もっと語られるべき大事なことは…

いもうと物語 失われる石炭の文化

「いもうと物語」の「黒い川」で、チヅルは母清子に連れられて母方の伯母の家へ行く。そこで彼女がみたのは、斜陽になりつつある炭鉱町や、景気が悪くなって落ち込む伯父と家族の争いに悩む伯母、粗暴ながらも成長しようとする従兄だった。炭鉱労働者にはな…

これからの蕨ヶ丘物語

これを書いている現在は2013年で、1984年の蕨ヶ丘物語から30年近くが経っている。日本はバブル経済とその崩壊、二度の大震災、先の見えない不況の時代と地方の深刻な過疎化高齢化を経験している。そんな時代の蕨ヶ丘と権藤家のことが心配で仕方ない。そこで…

蕨ヶ丘物語:小梅ばあさん再考

筆者は中学生のとき初めてこの作品を読み、第三話まで抑圧的だった小梅ばあさんが第四話で見せる生き生きとした素顔、過去の片思いの相手たちを探しに行く展開、そしてドタバタが非常に痛快だったという記憶がある。しかし、この作品を書いた頃の氷室先生の…

「蕨ヶ丘物語」年代確定

「蕨ヶ丘物語」の小梅ばあさんは、孫娘には「生きた明治維新」と思われているが、実は大正元年生まれだ。1912年の5月に生まれたの親友イネさんは明治45年、同じ年の11月生まれの小梅ばあさんは大正元年生まれとなり、「明治維新と大正モダニズム、この差は大…

「ラブ・カルテット」氷室冴子

私が最もよく氷室冴子先生の小説を読んでいたのは、中高生だった1990年代だ。そのときに、小説と漫画(原作小説が先に出版されたものは除く)で文庫、単行本が出ているものはコンプリートしたと思っていた。 しかし、最近再読をはじめ、インターネットの…

「雑居時代」 (氷室冴子)数子と譲叔父さんの関係

日本の民法上、叔父と姪は三親等の傍系血族にあたり、結婚できない。 しかし、「雑居時代」の1982年コバルト文庫版で、主人公の倉橋数子は、血のつながった父方の叔父である譲に真剣に恋し、結婚を夢みている。譲と別の女性の結婚が決まったときには、「…

承香殿の女御(「なんて素敵にジャパネスク」氷室冴子より)

「なんて素敵にジャパネスク8 炎上編」のあとがきでは、続編はアンコール編となることが予告されている。結局発表しないまま氷室冴子先生は逝去されたが、誰を主人公とした作品が構想されていたのだろうかと、あれこれ想像が膨らんでしまう。 私が一番読み…

「恋する女たち」のフードシーン

「クララ白書」シリーズにはかわいらしいお菓子がたくさん登場するけれど、ほぼ同じ時期に書かれた「恋する女たち」では、お菓子の描写がほとんどない。あっても無骨な雰囲気だ。主人公の多佳子が友達への手土産と思って買うのは、岩見沢名物天狗饅頭である。…

「クララ白書」シリーズのフードシーン

「クララ白書」といえばドーナツ。女子校の寄宿舎に中途入舎する中学三年生のしのぶたちが課されたテストは、真夜中に調理室へ忍び込んで四十五個のドーナツを揚げることだった。シナモンシュガーのかかった揚げたてのドーナツをつまむシーンは、読み返すた…

記憶の本棚―氷室冴子こぼれ話など―

2012年8月、「月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ」が発売されました。2008年に亡くなった作家、氷室冴子先生の文庫本未収録作品と再録作品が合わさった一冊です。 これをきっかけに、中高生のとき大好きだった氷室冴子先生の作品をゆっくりと読み直すことにしました…